中国人がルールを守らない理由とは?異文化の「価値観」と「罰則」の構造から読み解く

中国エンタメで文化を読み解く

「なんで中国人はルール守らないの?」

観光地で横入り。赤信号でも堂々と歩く。

「なんで中国人って、ルールを守らないの?」

そんな疑問を感じたことはありませんか?

日本では「ルールを守ること」が美徳とされています。しかし、中国では「ルールは交渉できるもの」と捉える人も多いのです。

では、なぜそのような価値観が生まれたのか?

中国のZ世代が働くリアリティ番組『100道光芒1』をヒントに、中国人がルールを守らない本当の理由を解き明かします。

『100道光芒』CM

日本と中国、そもそも「ルールの捉え方」が違う

まず、日中の大きな違いは、

「ルール=絶対的なものかどうか」

という価値観にあります。

日本「全員が守る」ことが正義

日本では、まずマニュアルや制度が整い、その仕組みに沿って行動するのが秩序とされます。

みんなが同じルールの下で平等にプレーすることが、美徳とされています。

中国「状況に応じて動く」ことが合理的

一方の中国には「上有政策、下有対策(上に政策あれば、下に対策あり)」という有名なことわざがあります。

これは、「ルールがあれば、それをどう利用するかを考える」という発想の象徴です。

ルールはあくまで指標であり、それを乗り越えられる機転こそが評価される。つまり、「ルールを守ることが誠実だ」という考え方が、そもそも一般的ではないのです。

なぜルールを破るのか?

ここで重要になるのが、「ルールを破ったときに損をするかどうか」です。

法律は守る。でもマナーは守らない?

興味深いのは、中国人がすべてのルールを無視しているわけではないことです。むしろ法律や契約に関しては、日本以上に厳しく順守する人もいます。

なぜかというと、罰則があるからです。

例えば、交通違反に関しては、深圳などでは信号無視の顔認証カメラ導入後、違反数が「1,000件/日→80件/日」と減少しました。同時に、飲酒運転や無免許には最大2,000元の罰金+免許取り消しが科される厳しい制度が存在します 。

また、「社会信用システム」では重大違反者がリスト入りし、航空券や高鉄チケットの購入が制限されます。2018年には失信者が約780万人、約1,500万人が旅行制限対象となったと報告されています。(en.wikipedia.org 参照)

違反すれば逮捕、信用スコア(芝麻信用)2に悪影響が出て、ローンや交通機関の利用にも制限がかかる社会構造があるからです。

罰則がないマナー・ローカルルールには…

「赤信号を無視しても、罰則がない」
「列に割り込んでも、叱られない」

そんな場面では、中国人はルールを守るインセンティブを感じません。

このように、ルールに対する態度は守るべきかではなく「破って損をするか」で決まるのです。

番組に見る「ルール破り」のリアルな価値観

ここからは中国のバラエティ番組

『100道光芒』からわかった

2つの事例を紹介します!

(『100道光芒』EP2「1人の女性応募者がルールを破ったシーン」10:00~)

事例①「エスカレーター面接」での逆走アピール

ある就職面接の形式は、1分間のエスカレーター自己アピールです。通過すれば面接官の部屋に入れます。

ところが、ある女性応募者は1分で扉が開かなかったにもかかわらず、エスカレーターを逆走して戻り、さらに30秒間アピールを続けました。

その結果、扉は開き、面接に進めました。

彼女にアピールをし続けた理由を聞くと「自分の利益のため」と答えます。彼女にとって、これはルール違反ではなく、「損失を補う合理的な行動」だったのです。


(『100道光芒』EP8「1人の女性応募者がルールの抜け道を使ったシーン」1:07:00~)

事例②ライブコマースで家族を使った裏ワザ

ライブ配信で商品を販売し、売上を競う企画でのこと。ある新入社員の女性は、あらかじめ家族に配信の日時と商品を伝えておきました。

結果、母親がその商品を一人で20個以上購入。

明文化されたルールには違反していません。けれど、「それってズルじゃない?」と感じた視聴者も多かったでしょう。

中国的視点では、「抜け道を使って成果を出す人」が評価される。一方、日本的視点では、「ルールに反する行動」としてマイナス評価される。日本では不正と見なされることでも、中国では「チャレンジ精神」や「問題解決能力」として前向きに捉えられることもあります。

この価値観のギャップが、日常的な違和感につながっているのです。

文化的背景を理解する:ホフステード理論の視点

このような価値観の違いは、文化比較の分野でも研究されています。

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードの理論によると、中国と日本では「不確実性回避」「個人主義」「長期志向」などのスコアに大きな差があります。

指標日本中国
権力距離5480
個人主義4620
不確実性回避9230
長期志向8887

(データ出典:Hofstede Insights(2024年アクセス)http://hofstede-insights.com

※不確実性回避・長期志向とは、将来を見越して柔軟に行動する傾向を指す。

中国は「不確実性回避」が低く、「長期志向」が極端に高い。つまり、決まったルールよりも、柔軟に適応して目的を達成する力が重視される文化なのです。

ルールはどうすれば守られるのか?

答えはシンプルです。破ったときに損をする構造を作ること

  • 違反すれば減点、罰金、参加資格剥奪などの罰則を明記する
  • 抜け道がないよう、ルールの設計を細かく詰める
  • グレーゾーンを減らす明文化

でなければ、「損しないならルールは守らなくていい」という行動原理が働いてしまうのです。

違和感は理解の第一歩になる

中国人がルールを守らないように見えるのは、「価値観」と「構造」の違いによるものです。マナーや常識は国によって異なります。

「なんであの人たちは…」と感じたら、その違いを理解するチャンスかもしれません。

違和感を理解に変えることで、国際社会を生き抜く視野が広がります。そしていつか、その知識があなたの強みになるはずです。

注釈

  1. 2022年に放送されたZ世代を焦点にあてたビジネスのリアリティショー。2000年に生まれた新卒社会人の成長ドキュメンタリー番組。彼らを職場の新人からビジネスプレーヤーへの成長を題材にした。 ↩︎
  2. 中国の個人信用スコアシステム ↩︎

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