「日本人を○せ!」と叫ばれる現場に立ち尽くした。
2017年4月、私は上海にある「上海影視楽園1(上海映画パーク)」を観光中、偶然にも中国の「反日ドラマ2」の撮影現場に遭遇しました。


「打倒日本!打死他们!(日本をぶっ倒せ!奴らを○せ!)」
あるシーンが撮影される直前、1人の観客がそう叫ぶと、ほかの観客らが拍手と笑い声で反応していたのを見たとき、私は日本人であることを強く意識し、恐怖と緊張でその場に固まってしまいました。
その空気は、ただのフィクションではなかったのです。
撮影場所は“1930年代の上海”を再現した観光地
上海影視楽園は、1930年代の街並みを再現したテーマパークです。日本で言えば太秦映画村のような存在で、映画やドラマのロケ地にも使われています。
木村拓哉主演の『華麗なる一族』や、あいみょんの「マリーゴールド」のMVにも登場したことがあり、観光客にも人気の場所です。
私も観光のついでにエモい写真を撮るつもりでクラスメイトと訪れたのですが、そこで見たのは想像を超える現場でした。
反日ドラマは“抗日ドラマ”と呼ばれている
中国では「反日ドラマ」は正式には「抗日ドラマ」と呼ばれます。日中戦争期を舞台に、日本軍に立ち向かう中国人を正義として描くのが定番の構成です。
日本人は、背が低く、ちょび髭を生やし、威張っていて、酒好きで男尊女卑……と、ステレオタイプに描かれることが多く、最終的には共産党が正義として勝利するというお決まりの筋書きがあります。
これは、単なる娯楽作品ではなく、中国政府による愛国教育の一環として位置づけられています。
2012年の例
中国当局に制作申請されたドラマ300本のうち、抗日作品は3分の2(約200本)に達したと現地メディアが報じています
なぜこうしたドラマが量産されるのか?
中国では、テレビ番組のジャンルの柱に「ニュース」「バラエティ」「ドラマ」があり、その中でも特にドラマは愛国的であることが求められます。
放送には厳しい検閲制度3があり、「愛国的」であればあるほど安全に放送できる。そのため、抗日ドラマは量産され、現在もテレビや配信プラットフォームで繰り返し放送されています。
図解:反日感情が形成される構造
教育(愛国教育) + 映像体験(抗日ドラマ) + 家族の記憶(祖父母の戦争体験)→刷り込み「日本人=悪」→ 現実に触れてギャップを感じる(来日・交流)
┌────────────┐
│ ① 教育の影響 │ ← 小学校からの愛国教育4・歴史教材
├────────────┤
│ ② 映像コンテンツ │ ← 抗日ドラマ・映画・バラエティ
├────────────┤
│ ③ 家族の記憶 │ ← 戦争体験者(祖父母)の証言
├────────────┤
│ ④ 検閲制度・政治的配慮 │ ← 「愛国的=放送OK」の構造
└────────────┘
↓
【刷り込み構造】
「日本人=悪」と無意識にインプットされる
↓
【現実とのギャップ】
・来日経験やSNSでの発信により「思ったより優しい」ことに驚く
“悪い日本人が倒される”ことに湧く観客
反日ドラマの撮影では、銃声や爆発音が飛び交い、日本兵に扮した俳優が倒れていきます。
観客たちはその様子を動画で撮影し、拍手を送り、笑顔を見せていました。その空気は、単なる撮影風景ではなく、勝ち戦の再演のように感じられました。
旧日本軍の車両(旭日旗5つき)は、撮影現場の入り口近くに置かれていました。まるで「怒りを高める装置」のように感じられました。


来日した中国人が感じる“ギャップ”
一方で、実際に日本に来た中国人の多くは、こう言います。
「日本人って、思っていたよりずっと優しかった」
メディアで教えられた日本像と、実際に目の当たりにする現実の差に戸惑い、驚く人は少なくありません。反日ドラマで見ていた背が低く、ちょび髭を生やし、威張っていて、酒好きで男尊女卑な人がほとんど見られない。
これは、教育・メディア・記憶によって形成されたイメージと、現実との間にある刷り込みのギャップです。
刷り込みの怖さは、私たちも無自覚に持っている
2023年、私が中国人の妻の家族や友人に言われた一言。

「え?日本人って毎日お寿司食べてるんじゃないの?」
いやいや、さすがに毎日は食べません(笑)
しかし彼らは、テレビやネットで「日本人は毎日寿司を食べる」というイメージを見たことで、それを当たり前だと思っていたのです。
私たちだって同じです。「中国人って毎日麻婆豆腐(あるいは小籠包)を食べてるんでしょ?」という感覚と、実は根は同じ。
“刷り込み”といえば、先日投稿したこちらの記事もそのうちの一つでしょう。
知ったうえでどう接するか?
中国人のすべてが反日的なわけではありません。でも、子どもの頃から刷り込まれたイメージは、簡単には消えません。
だからこそ、恋人・配偶者・友人など、身近な中国人にこう聞いてみてほしいのです。
「抗日ドラマ、観たことある?」
「どう思ってる?」
まずは知ること。怒るより、対話すること。
注釈
- 上海市松江区車墩鎮にある上海映画グループが運営する映画・テレビドラマ撮影用のオープンセットとスタジオの観光向け施設名。正式名称は「上映車墩映画テレビ撮影制作基地」。 ↩︎
- 日中戦争を背景に、日本軍と中国人の戦いを描いた中国国内向けの愛国ドラマ。 ↩︎
- 政府がテレビや映画の放送前に内容を審査する制度。政治的に不都合な内容は放送不可。 ↩︎
- 中国で行われる“祖国愛”を育む政治教育。歴史や戦争の記憶を用いることが多い。 ↩︎
- 旧日本軍が使用していた軍旗。戦後も自衛隊などで使われているが、特に韓国や中国では軍国主義の象徴と見なされている。 ↩︎
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