
「これ、絶対似合うよ!」
そう言って差し出されたのは、グリーンのシャツでした。胸元にはブランド名が大きくプリントされ、背中には動物の刺繍。まるでラーメン屋の看板をそのまま着たような印象でした。
鏡に映る自分を見て、思わずこう思いました。
これは罰ゲームか……?
中国人の妻と暮らすようになってから、こうした「服の価値観の違い」に戸惑うことが増えました。お互いのセンスが合わない。けれど、ある日ふと気づいたのです。
これはセンスではなく、文化の違いなのかもしれない。
中国人の「似合う」は“派手さ”と“注目されること”
中国では、原色や派手なデザインが好まれる傾向があります。黄色、赤、青、緑、紫。どんな色でも堂々と着こなすのが当たり前。そこにロゴやプリント柄を盛り込むことで、ファッションとしての「完成度」が高まると考える人が多いようです。
中国の人気ファッション番組『潮流合伙人(FORTRY)1』では、出演者が原色や装飾の多い服を着て登場するのが当たり前です。
中国人にとっては、「目立つ=おしゃれ」「盛る=魅せる」なのです。
私の妻も同様です。彼女が「似合う」と褒めてくれる服は、たいてい日本では勇気がいるような派手な服です。ある日、こう言われました。

「あなたの服、
全体的に色がなさすぎて、
元気も覇気もなさそう。」
そのとき私は、軽くショックを受けました。けれど、それは彼女なりの「よかれ」だったのです。
日本人の「似合う」は“調和”と“落ち着き”
日本では、黒、白、ベージュ、ネイビーなど、控えめで落ち着いた色が好まれます。空気を読む文化、TPO(ティーピーオー)2を重んじる価値観が根底にあるためです。
シンプルで機能的な服を選ぶことが、「大人のマナー」とされる場面も少なくありません。
3たとえばUNIQLO(ユニクロ)は、使いやすくて誰にでも合う。日本ではそう評価されることが多いブランドです。
しかし、中国ではそうとは限りません。筆者の中国の友人はこう言っていました。

UNIQLOを着るくらいなら、
ZARA(ザラ)4の方が100倍かっこいいじゃん!
その言葉に、思わず苦笑いをしてしまいました。
日本の家族に言われた「その服、子どもっぽいね」
妻が選んでくれた原色のパーカーを着て、実家に帰ったときのことです。母にこう言われました。

あんたそれ……なんか子どもっぽくない?
その一言が、胸に刺さりました。
中国では、スウェットやパーカー、柄Tシャツ、スニーカーといったカジュアルな服装が、大人にも広く受け入れられています。
しかし日本では、年齢を重ねるにつれてジャケットやシャツ、革靴など「きちんとした印象」を与えるドレスアイテム5が好まれる傾向があります。
中国で評価されるポップさが、日本では若作りに見えてしまう。このギャップは、想像以上に大きいものでした。
どう向き合う?——理由を伝えて、好みを尊重し、自分で決める
何度も服のことで衝突して、私は考えました。
なぜ私はこの服を着たいのか。
どこに着ていくのか。
まずは、自分の選択に「理由」をつけて言葉で伝えること。そして、相手の好みも尊重すること。
その上で、最終的には自分で選ぶという姿勢を見せることが大切だと気づきました。
無理に合わせない。けれど、拒絶もせず、説明して対話する。それだけで、服選びのストレスがぐっと減ったのです。
洋服だけじゃない。中国人の“押しの強さ”は日常のあちこちにある
中国人と暮らしていると、「良かれと思っての押し」が、あらゆる場面で顔を出します。
たとえば、
- 辛いものが苦手なのに、「辛さレベル5の方が絶対おいしい!」と勧められる
- 革靴が欲しいのに、「今このスニーカーが中国で超流行ってるから、こっちにしなよ」と言われる
- 日本企業で働いているのに、「中国ではそうしない」と仕事の進め方を一蹴される
こうした「押し」の背景には、「自分が良いと思うものを、相手と共有したい」という強い価値観があります。自分が良いと思うものを、相手と共有したい」という強い価値観があります。
中日ファッション価値観の違い(図解)
観点 | 中国人の傾向 | 日本人の傾向 |
---|---|---|
好まれる色 | 原色・派手 | モノトーン・淡色 |
アイテム傾向 | パーカー・柄T・スニーカー | シャツ・ジャケット・革靴 |
美意識の方向性 | 足し算(盛る) | 引き算(削ぐ) |
ブランド志向 | ロゴ大・高級感重視 | シンプル・機能性重視 |
評価軸 | 目立つ・注目される | TPO・清潔感・調和 |
「文化の違い」と気づけた先にあるもの
服のセンスが合わない。価値観が違う。
でもそれは、誰かが正しくて、誰かが間違っているという話ではありません。
ただ、文化が違うだけなのです。
そのことに気づくだけで、ずいぶん気持ちがラクになります。
そしてこの感覚は、カップルや夫婦だけではなく、友人関係や仕事、接客、恋人候補との関係にも役立ちます。
あなたも、同じような経験はありませんか?
この記事を読んで「自分にもあったかも」と思った方は、一度立ち止まって考えてみてください。
それって本当に非常識?
それとも、文化の違い?
違和感の正体がわかると、ストレスが減り、人間関係がラクになります。
読んでくださってありがとうございました。もし共感していただけたら、X(@ST__Culture)もぜひ覗いてみてくださいね。
コメント