中国人に「辛い」が通じない理由とは?異文化理解の落とし穴

中国エンタメで文化を読み解く

中国人「辛いのは食べれますか?」
外国人「はい、好きです!」

……たったこれだけの会話で地獄を見ることになるなんて、思ってもみなかった。

「中国人に“辛い”が通じない」──そんな経験はありませんか?

本記事では中国の人気バラエティ番組をもとに、中国と他国との文化的ズレ、特に「言葉の概念」の違いについて考察します。

『中餐厅第二季』(2018年放送)より「中国人の”辛い”とフランス人の”辛い”のイメージが違うと認識した瞬間」

「異文化理解」の落とし穴

グローバル化が進む今、「異文化理解」という言葉をよく聞くようになりました。
しかし、その中身を突き詰めて考えたことがある人は、意外と少ないのではないでしょうか。

言語、価値観、習慣……違いは多岐にわたりますが、一見「同じ言葉」で通じているように見えても、
その「言葉の意味」は、文化によって大きく異なります

今回は、中国の人気バラエティ番組『中餐厅(The Chinese Restaurant)1』と『潮流合伙人(FOURTRY)2』を通して、異文化理解の難しさ、そして中国人が「なぜ文化を譲らないのか」という深層心理について考えてみたいと思います。

(『中餐厅第二季』(2018年放送) 49:30~「中国人の”辛い”とフランス人の”辛い”のイメージが違うと認識した瞬間」)

『中餐厅』で見る「辛さ」の文化の違い

『中餐厅』は、中国の芸能人たちが海外で中華料理店を開き、現地の人々に中国文化を伝えるという趣旨の番組です。

2017年のタイ編、2018年のフランス編、2019年のイタリア編。毎シーズン、出演者たちは異なる国の人々と接しながら奮闘します。

この番組で最も象徴的だったのが、「辛さ」に関する文化的なズレです。

「辛さ」は万国共通語ではない

たとえばフランス編でのこと。

中国人スタッフ「辛い料理は食べれますか?」
フランス人客「はい、辛いの好きです」

そこで提供されたのが、四川料理に代表されるような“ガチ辛”の中華料理。唐辛子がスープの表面を覆い尽くし、まるで赤い海のよう。

一口食べたお客さんは絶句します。
「これは無理です。辛すぎて食べられません」

彼らにとっての「spicy」は、スパイシー=風味の効いた程度。
しかし、中国人の考えるspicy=「辣(là)」3は、体の内側から燃え上がるような強烈な辛さ。

つまり、同じ「辛い」という言葉でも、文化が違えば“体験の質”がまったく違うのです。

※中国とフランスの辛さを知る例として、下記リンクも参考にします。

https://www.1chinese.com/ala/13795(チャイニーズドットコム中国語教室「知っておいて損しない中国語「麻辣」| 中国語勉強の教材」、2024.01.19公開)

https://www.arukikata.co.jp/tokuhain/251486/(地球の歩き方「フランス人の味覚、辛い料理が苦手?猫舌?」、ティエリー フランス特派員、公開日2021年2月13日)

2017年タイ編では気づけなかった

おもしろいのは、2017年のタイ編では、出演者たちはこのズレに気づけていなかったことです。タイもまた辛い料理が有名な国ですが、それでも「中国的な辣」と「タイ的なspicy」は別物でした。

この気づきが訪れたのが、2018年のフランス編でした。お客さんのリアクションから、ようやく彼らは「言葉の一致≠概念の一致」であることに気づき始めます。

しかし、そこから中国人の発想が面白いんです。

「辛さ」を引っ込めないのが中国人の美学

普通ならこう考えるはずです。

「辛さを抑えて、現地の人の好みに合わせよう」
「彼らの味覚に寄り添って、アレンジすればいい」

しかし、彼らは違いました。

「辛くない中華なんて中華じゃない」
「これを食べてこそ、中国料理の奥深さが伝わるんだ」

したがって、辛さを下げるのではなく、別の辛い料理を試して様子を見るのです。

火鍋がダメなら麻婆豆腐。
麻婆豆腐がダメならマーラータン。

辛さの種類を変えてでも、「中国の“辣”(中国的spicy)を理解してもらいたい」という執念。

ここには、中国人が持つ文化への誇りと、譲れない自尊心が見え隠れしています。

『潮流合伙人』に見るファッションの文化衝突

異文化のズレは食だけにとどまりません。アパレルの世界でも同じような違和感が生まれます。

2019年に東京の南青山で撮影された『潮流合伙人(FOURTRY)』。中国の新鋭デザイナーたちが手がけるブランドの洋服を広めようとしました。

ここで注目されたのが、「かっこいい」と「かわいい」の定義です。

日本人と中国人の“かっこいい・かわいい”のギャップ

中国では、「かわいい=女らしいもの」「かっこいい=男らしいもの」というイメージが強いです。そのため、たとえば、黒地のTシャツにマイケル・ジャクソンが大きくプリントされた服は、「かっこいい」とされます。

一方、日本ではどうか?

同じTシャツでも、『かわいい』と感じる人もいれば、『かっこいい』と感じる人もいます。日本の感性は、より自由で多様性に富んでいます。

中国人からすれば、「なぜこれが“かわいい”なのか理解できない」
日本人からすれば、「なぜそこまで“男らしさ・女らしさ”にこだわるのか不思議」

ここでも、表面の言葉は同じでも、その奥にある“概念”が違うということがよくわかります。

なぜ中国人は自分たちの文化を曲げないのか?

では、なぜ中国人はこうも自国の文化にこだわるのでしょうか。

そこには、強い自尊心と文化的誇りが根底にあります。

中国には4000年の歴史があります。今も国際政治・経済で存在感を持つ大国です。その自負が、「我が道を貫く」という姿勢につながっています

だから彼らは、異文化に迎合しない。

むしろ、「こちらの文化を知ってくれ、理解してくれ、受け入れてくれ」という強いメッセージを発しているのです。

日本人がこのままだと危ない理由

日本人は「郷に入りては郷に従え」が美徳です。空気を読み、相手に合わせることが良しとされてきました。

しかし、この姿勢が裏目に出ることもあります。

なぜなら、中国のように自己主張が強く、文化的な押し出し力が強い国と向き合うと、一方的に相手のペースに飲み込まれるリスクがあるからです。

つまり、異文化理解が表面的な言葉合わせで終わってしまうと、「合わせすぎて自分を失う」ことにもつながりかねないのです。

どうすれば異文化に振り回されずに生きられるか?

では、私たち日本人はどうすればいいのでしょうか。

答えはシンプルです。

「言葉の意味」だけでなく、「その言葉が生まれた背景」まで理解すること。

「辛い」という言葉を聞いたら、その人の国や文化では「どんな辛さ」を想像しているのか。
「かわいい」や「かっこいい」という感覚の違いは、どこから来るのか。

重要なのは、概念のズレを“翻訳”ではなく“交渉”として捉えることです

結論:異文化理解は思いやりだけじゃ足りない

異文化を理解するって、すごく難しいです。思いやりや興味だけでは、限界があります。

必要なのは、「相手がその言葉をどう感じているか」を知ろうとする姿勢です。そして、「自分の立場や文化をどう守るか」を考える覚悟です。

中国人が異文化に合わせないのは、理解できないからじゃない。理解したうえで、あえて譲らないという文化的戦略なんです。

私たちもまた、「合わせる」ことと「譲らない」ことのバランスを取りながら、真の異文化理解を育てていく必要があるのではないでしょうか。

注釈

  1. 2017年に放送開始された番組。世界に中国の食文化をアピールする目的で製作された。芸能人が1ヶ月間、現地で中華料理店を経営する。 ↩︎
  2. 2019年に放送された番組。中国屈指の有名芸能人がアパレルのポップアップストアを1ヶ月開店する。ファッショントレンドの聖地”東京原宿”でアパレルショップを経営したらどうなるかという実験も兼ねて製作された。 ↩︎
  3. 唐辛子や花椒を使った“舌が痺れるような刺激的な辛さ”を意味する。 ↩︎

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