「またかよ…」と思ったその瞬間
中国で生活していると、あるいは中国人観光客と接すると、こう思う瞬間に何度も出会います。
「なんでルールを守らないの?」
「ちょっとは人の迷惑を考えてくれないの?」
たとえば、新幹線の指定席に座ろうとしたとき。
指定された席には、まるで当然のように座っている人がいます。声をかければスッとどいてくれる人もいる。なかには「なぜどかなければならない?」と食い下がってくる人もいる。
さらに面倒なのは飛行機です。中国の航空会社を利用したときのことでした。
離陸前のアナウンスで「携帯電話の電源はお切りください」と言われても、まるで聞こえていないかのようにスマホを操作し続ける。
他人事ながら、正直言ってイライラしました。しかし、こうした「モヤモヤ」に何度も出会ううちに、私はあることに気づきました。
彼らは、わざとルールを破っているわけではないのではないか?
少なくとも、悪意があってやっているわけではなさそう。その背景には、私たちとはまったく異なる常識が存在していました。
日本人は「仕組み」で動く
日本社会では、ルールとは守るものとされています。社会全体がそれを前提に設計されています。
たとえば、列に並ぶ。電車では静かにする。職場では上司の指示に従う。
なぜそんなふうに行動するのかといえば、それが「世間様」に迷惑をかけない正しい振る舞いだからです。
私たちは子どもの頃からこう言われて育ってきました。
「そんなことしてたら、世間様に笑われるよ」
つまり「外側からの目」によって、自分の行動を律するのが日本社会のベースとなっています。マニュアル、ルール、規範。それらのような「仕組み」に合わせて動くことが、信頼や評価につながるのです。
中国人は「人」で動く
一方の中国は、まるで違います。
彼らは、状況に応じて自分にとってもっとも合理的な選択をします。「この場面で得をするのはどんな行動か?」という問いに対して、ルールよりも自分自身の判断基準で答えを出します。
実際、私が中国人の妻と暮らすなかで感じたのは、彼女たちは「マニュアル通りに動くこと」にあまり価値を置いていないということです。それよりも、状況判断力や柔軟性が評価されます。
この背景には、儒教の「自己修養」という考え方があります。
人は、誰かに従うのではなく、自らを律して立派になるべきである。
つまり「私はマニュアルがなくても正しく判断できます」と言える人間が、尊敬されるのです。
中国人は自己評価がすべて
ここで問題が出てきます。
自己修養が重視されるということは、「自分のことは自分で評価する」という文化でもあるということです。
そして、人はどうしたって自分に甘くなります。結果として、「私はちゃんとできている」「間違っていない」という自己評価が前提になってしまいます。
私が過去に体験した飛行機のエピソードが、まさにそれでした。
3列シートすべてを占領して、足を伸ばして寝る中国人。中国人の客室乗務員はその光景を見ても、何も言いません。当人たちも「この席が空いてたから問題ない」と思っています。
問題なのは、自分で勝手に正しい行動だと判断してしまっていることです。
日本人にとっての「ルール」や「マナー」は、中国人にとっては「状況によって変わるもの」という認識です。その判断は外部が決めるのではなく自分自身がするもの、という考え方なのです。
郷に入っても郷に従わない
「郷に入っては郷に従え」ということわざがあります。しかし、これも中国人には通用しません。
中国人にとっては、「相手のルールに合わせる」ことより「自分にとって合理的であるか」のほうが重視されるからです。
中国のバラエティ番組を見ていて驚いたことがあります。ゲームのルールが自分に不利だとわかると「これは不公平だ」と言って、勝手にルールを変えてしまいます。
日本なら「ルールはルールだから仕方ない」となります。しかし、中国では「納得できないルールに従う意味がない」となります。
どうすればいいのか?3つの対処法
ここまでの話を踏まえたうえで、「じゃあ、実際にルールを守らない中国人に出会ったときどうするか?」という問いに、私なりの答えを3つにまとめます。
①ルールの“絶対性”を手放す
まず、「ルールは誰にとっても守るべき絶対的なもの」という前提を、少しだけ手放します。
中国人にとってルールとは、状況や文脈によって柔軟に変える目安でしかない。その背景を知っているだけで、少しイライラの質が変わる。
②“個人”と話す感覚を持つ
相手を「中国人」と一括りにせず、「この人はどんな価値観で動いているんだろう?」と、個人の判断軸を探るように接してみる。すると、話が通じやすくなります。
「これはルールですから」ではなく、「あなたが得だと思ってること、こっちにも不都合があるんですよ」と率直に伝えることが大切です。
そこから意外と納得してくれることもあります。
③“注意されないとやらない”文化を逆手に取る
中国では「注意されるまではやってもいい」と考える人がとても多いです。それなら逆に、毅然とした態度で注意することも手段の一つです。そうすれば、相手の行動が変わることもあります。
中国現地であれば、車掌やスタッフに「これは困ります」と伝える。海外であっても、自分の正当性を冷静に主張すれば、意外と通じるものです。
おわりに
もちろん、すべての中国人がルールを破るわけではありません。しかし、私たちの目線からすると、たしかに彼らのルールを破る行為が目に余ります。
また、彼らの文化が間違っているわけでもありません。
ただし、「なぜそうなるのか?」という構造を知っているかどうかで、わたしたちのストレスの質は変わります。
怒りや違和感をそのままぶつけても、相手は変わりません。しかし、違いを知ったうえで対処すれば、お互いに歩み寄る可能性が生まれます。
ムカつくのは、当然です。しかし、その感情を理解しようとする力に変えてみてください。「ムカつく!」の裏側を知ることから始めましょう。
それが、異文化と向き合う第一歩です。
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