【更新日:2025年7月8日】
この記事を書いている筆者は、中国に累計4年滞在。
- 2014年:北京大学に留学(半年間)
- 2016年〜2019年:上海外国語大学 修士課程
- 2021年:中国人と国際結婚(中国で半年間の生活)
- 累計150本以上の中国バラエティ番組を視聴
日本人として、そして外国人として中国社会に接してきた中で、数多くの“違和感”を体験してきました。
そのうちのひとつが今回のテーマです。
「私は他の中国人とは違う」の罠
「私は、典型的な中国人とはちょっと違うんです。」
「日本人っぽい性格だと、よく言われます。」
中国人の友達、恋人、職場の同僚から、こんな言葉をかけられたことはありませんか?
私も、何度も言われました。
そして、何度も信じました。
でもそのたびに思うのです。
「違うって言ってたけど、結局“いつもの中国人”だったな」と。
このフレーズ、じつは本人に悪気がないだけに厄介です。
中国人が「違う」と言いたがる文化的理由
中国では「他人からどう見られるか」が人生の評価軸です。
- 周囲からの評価=面子(メンツ)1があるかどうか
- 他人より優れていることが重要
- 自分を特別に見せることがあたりまえの自己紹介
「私は違う」は、「私は劣っていない」の裏返しです。
つまりこれは自己アピール2の一環であり、 自分を認めてほしい=承認欲求3の表れです。
本人にその自覚がなくても、文化的に刷り込まれている4行動様式なのです。
日本人が誤解しやすい3つの思い込み
✅思い込み1「この人だけは違う」
日本人は「特別扱い」されると心を開きがちです。
でも実はそれ、誰にでも言ってる可能性もあります。
✅思い込み2「そう言うってことはそうなんだろう」
日本人は自己評価を控えめに伝える文化ですが、 中国では「自己アピールしない人=能力がない人」と見なされます。
✅思い込み3「信じる=素直なこと」
信じることと、疑わないことは違います。
日本人は「信じる=受け入れる」と考えがちです。
一方で、中国文化では「まず自分を売り込む」ことが前提となっています。
比較表「日本人と中国人の“信じる”の前提の違い」
文化項目 | 日本人 | 中国人 |
---|---|---|
自己評価の伝え方 | 控えめに伝える(=誠実) | 高めにアピール(=誠実) |
謙遜文化 | 美徳 | 弱さと見なされる |
信じるとは? | 相手の言葉をそのまま受け入れる | 試し、観察した後に判断 |
「私は違う」発言 | 他人が言うこと | 自分が主張して当然 |
面子意識 | 空気を読む=面子を保つ | 相手より上に立つ=面子が立つ |
なぜ「違う」は「同じ」になるのか?
多くの中国人が「私はみんなと違う」「私は典型的な中国人ではない」と言います。
しかし、その構造を見てみると、まったく同じパターンで自己主張しています。
つまり
「私は他と違う」とみんなが言う=「みんなが同じアピール」をしている
これは、
- 面子文化が全体に共有されている
- 違いをアピールすることが尊重される社会
という前提があるからです。
結果的に、違いを強調する人たちが「驚くほど似た行動パターン」をとってしまうのです。
「“私は違う”発言が“みんな同じ”になる構造」
ステップ | 背景・行動 | 補足・文化的意味 |
---|---|---|
① 面子文化が強い | 他人より劣って見られたくない | 「面子=人からの評価」を非常に重視する社会 |
② 他人より上でありたい | 自分の価値を示したい | 能力・知識・経験・外見などで“優位”を示す |
③ 自己評価を高く伝える | 「私は他の中国人とは違う」と言う | 自分を“差別化”するのが評価される文化 |
④ 周囲も同じように言っている | 実際にはよくある自己紹介のパターン | 特別な人のようで、みんながやっている行動 |
⑤ 結果的に同じになる | 「“私は違う”と言う人が大量にいる」 | →結果:“みんな同じアピール”をしている矛盾 |
本当に「違う人」を見抜くためのチェックリスト
じゃあ本当に「違う」中国人はいるのか?
います。
しかし、見極めには注意が必要です。
以下を参考にしてください。
🔍 チェックポイント
- 「どこがどう違う」のかを具体的に説明できるか?
- 「誰に」「何人に」「どのように違うか」言われたのかを明確に言えるか?
- 「日本人の特徴」を的確に言語化できているか?
- 自分の良さと文化の違いを区別して話せているか?
- 「日本人が中国人をどう見ているか」を理解しているか?
上記に詰まる人は、「ただの自己アピール」である可能性が高いです。
まとめ「信じる」前にまず観察から
人は「特別だよ」と言われると、心を開きやすくなります。
でも、それが文化的な型に沿った言動だとしたら?
私たちがすべきことは、相手の言葉をすべて信じることではなく、観察して確かめることです。
信頼とは、疑わないことではない。
本当に信じるには、“見極める力”が必要です。
中国人と信頼関係5を築きたいと思ったとき、 「私は他の中国人とは違う」「私はあなたが想像している典型的な中国人ではない」と言われたら、まずは一歩引いて、問いかけてみてください。
注釈
- 「他人からどう見られているか」をとても気にする中国の考え方。 ↩︎
- 自分のよいところを他人に強く伝えること。 ↩︎
- 「ほめられたい」「すごいと思われたい」という気持ち。 ↩︎
- 小さいころから自然に覚えてしまっている文化の考え方。 ↩︎
- おたがいに「この人は大丈夫」と思える関係。 ↩︎
👉 X(@ST__Culture)とnote(異文化理解のST)のフォローもお忘れなく!
コメント